詩集 ハタチ

ゼロ

 徹底的に破壊されなければ
 立ち直れないのかもしれない

 荒廃に引きずられて堕ちてゆく者を
 自然淘汰のふるいにかけ
 良質の結晶を創り上げるために
 人は破滅への道をひた走るのだろう

 物質的に壊滅していても
 荒れ果てた国土を復興する人々の
 澄んだ目の輝き
 なんと美しく生命(いのち)を切望していることか

 だが崩れすぎたバランスの中では
 人は生きてゆけず
 必ず脱落者が、豊かさを求める
 豊かさの強烈な麻薬
 一度味わえば、次は同じ量では足りない

 欲の暴走
 もう一つの破滅の道
 物質が満ち溢れる頃には
 精神は完膚なきまでに堕落している

 再び出来上がる極限状態
 それはまったく本能の成せる技なのだ

 遺伝子の目指すものはゼロであるが
 ついてしまった勢いは止められず
 極限にまで到達せねば引き返せない

 繰り返し、繰り返され
 円環はわずかにずれ
 ゼロ軸を中心に
 螺旋軌跡を描く

 すべての釣り合いが取れれば
 世界はピタリとゼロになるに違いない

 0=∞の可能性
 時代はいつも人知を越えて
 ゼロになろうと努力している