詩集 ハタチ

オオミズアオ

 風のない夜に
 空気がそろりと動いた

 ざわめく星々の中で
 一人沈黙し続ける
 石化した月
 かつては熱い塊だった
 渇いた横顔

 わずかな名残りが時折滲み出て
 したたり落ちる雫
 たちたちと
 夜の静寂に少しずつ気化し
 失われてゆく
 幼い感性

 こぼすまいと
 受け止めた手のひらから
 ふわり
 飛び立つオオミズアオ
 すり抜けた
 指先に残る鱗粉の光だけが

 熱い

 戻りたくとも戻れないのだと
 音もなく
 乱舞するオオミズアオたちが
 夜に溶けてゆく

 したたり落ちる雫
 取り戻せない
 熱すぎる結晶