胎動
春の空気は粒子が荒い
風の声を聞こうにも
ノイズが混じって
どうにも分かりにくい
冬の空気の純度の高さに比べて
いろいろなものを含みすぎているせいだ
そんな混濁した空気は
人を安心させるらしく
毛穴がほおおと開いてゆき
そこからするりと体内に入り込んで
全身に浸透してしまう
うっかりうたたねでもしようものなら
外皮は知らぬ間に抜け落ちている
しかし鏡を見ても気づきはしない
感覚が麻痺するほどに
春の空気はざわめいているのだ
さまざまなものを孕んで
はち切れそうに笑いながら
生命の飽和状態
原初の宇宙のように
生まれたくてうずうずしているものが
そこここに散らばっている
そんな粒子のコロニーが
せめぎあい、渦をまき
白熱する魂となって
ほのかに輝き出す時
新たな時代の再生が始まるのだ
|