詩集 ハタチ

胎動

 春の空気は粒子が荒い

 風の声を聞こうにも
 ノイズが混じって
 どうにも分かりにくい

 冬の空気の純度の高さに比べて
 いろいろなものを含みすぎているせいだ

 そんな混濁した空気は
 人を安心させるらしく
 毛穴がほおおと開いてゆき
 そこからするりと体内に入り込んで
 全身に浸透してしまう

 うっかりうたたねでもしようものなら
 外皮は知らぬ間に抜け落ちている

 しかし鏡を見ても気づきはしない
 感覚が麻痺するほどに
 春の空気はざわめいているのだ

 さまざまなものを孕んで
 はち切れそうに笑いながら
 生命の飽和状態
 原初の宇宙のように
 生まれたくてうずうずしているものが
 そこここに散らばっている

 そんな粒子のコロニーが
 せめぎあい、渦をまき
 白熱する魂となって
 ほのかに輝き出す時

 新たな時代の再生が始まるのだ