詩集 ハタチ

少年犯罪

 理由などなかったのだ

 少年はからっぽで
 彼を形作る薄い膜の下には
 空洞があるばかりで
 真っ黒な風がよどんでいたのだから

 理由すらなかったのだ、彼には

 今まで少年を動かしていたのは
 彼の周りの空気が固まったゼリーで
 様々な思惑に味付けされ
 濁りきっていたのだから

 よどんだ風と濁ったゼリーとが
 薄い膜を等しい力で押し合って
 少年は存在していた

 危うい緊張の中で
 膜は限界までのびきっていたのに
 誰かが少年に近づきすぎて
 ゼリーがぷるるんと揺れて

 均衡が崩れ
 弾け飛んだ膜から解放された風が
 無差別に
 目についたものをなぎ倒し始める

 もう少年はいない

 そこにあるのは
 ゴウゴウと渦巻く
 赤黒い風だけ