単発詩 冬眠

冬眠

ただ降り続く雪を見ている

薄い被膜が掛かった視界の遠く
水墨画の町並みが太陽を呼んでいる

思うように動かない手足は空を薙いで
酸欠状態の暖かな洞の中
硬質な冷気の記憶を探る

耳鳴りの音は
雪原に取り残された風に似ていた
冷たすぎる心地よさが
遠く近く
突き放すように引き寄せるように
山の斜面を駆け降りてくる時には
奔放な笑い声さえ孕んで

節々の強張りは
薄氷が張った水溜まりの仕返しに似ていた
名残惜しさにまとわりつく
幼子のように
柔らかで残酷な腕
その指先に執拗にくすぐられて
苦笑
むず痒く温かな痺れの代償

もう眠りの中でしか
触れられない、冬

枝先の雪が首筋に落ちた
あの鮮やかさ
笑いたくなるほどに覚えている夢の糧
記憶の中の冬は、こんなにも美しい
だから大丈夫

軋む手足が、燻る歪んだ身体を抱き締める

ゆらゆらとまどろんで
後は、春の訪れを待つばかり