詩集 蒼い曇り硝子

仔鹿

 僕の前には、氷づけになってしまった小さな仔鹿
 葡萄色の瞳でこちらを見つめている

 透明な冷たい檻の中で
 仔鹿は生きているのに
 氷の壁に耳を当てれば
 弱々しい鼓動が聞こえるのに

 僕に出来るのは、ただ息を吹きかけることだけ
 そんな事をしても厚い氷は溶けはしないけれど

 とても放っておけなくて
 僕には胸が痛すぎて
 僕は氷を暖めようとした

 もし、僕の手にのみとつちがあったなら?

 いいえ、…僕には出来ません
 僕が仔鹿まで傷つけないと誰が言えるだろう

 氷を溶かせるのは仔鹿だけ
 僕には見守ることしか出来ない
 それでも
 いつの日か、仔鹿は森に帰るだろう
 僕はそれを信じて氷の卵を温めよう

 気のせいだろうか
 今
 仔鹿が身じろきをしたように見えたのだけれど