詩集 蒼い曇り硝子

茅蜩(ひぐらし)

 夏の終わりに蝉が啼いている
 陽は山のふちに差しかかろうとしている
 途切れがちな声が
 濃くなる闇と共に一つずつ消えてゆく

 今年も夏にうずもれてゆく
 赤い斜光を照り返す腕の黒さが
 なくしてしまった麦藁帽子が

 今年も夏がうずもれてゆく
 乾いてしまった水溜まりに
 うつむいているひまわりに

 戻れない夏を想って蝉は啼くのかもしれない
 人は泣くのかもしれない
 黒々とした木々の隙間に閉じ込められた泣き声に
 北風が共鳴りを始める時
 一つの夏が風に散っていくのかもしれない

 置いてきぼりにされてしまった夕焼けに、涙
 ああ、あの破れかけた虫とり網はいずこ…