詩集 神々の視線

夜桜

 夜気がざわめく

 空気のとろみが増し
 ゆうるりと肌にまとわりつく芳香

 樹々の羊水の中でたゆといながら
 機を窺っていた魔性が
 幹をつたい
 蕾を押し広げ
 闇に融け込んだ瞬間

 艶
 さしのべられた腕
 焔
 指先がいざなう
 怨
 月影の鼓動
 宴
 魅せられて

 月に、桜に、夜に酔う

 ひときわ濃い闇の中心に在って
 嫣然とたたずむ

 極上の妖